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太陽光パネルの経年劣化:兆候の早期発見と正確な診断方法

  • 執筆者の写真: 優 中野
    優 中野
  • 7月29日
  • 読了時間: 7分

太陽光発電システムは一般的に長寿命と言われていますが、時間の経過とともに様々な劣化が進行します。パネルの劣化を早期に発見し適切に対処することで、システムの寿命を延ばし、発電効率の低下を最小限に抑えることができます。本記事では、太陽光パネルの経年劣化の兆候を見分ける方法と、正確な診断技術について詳しく解説します。



目に見える劣化サイン


パネル表面の変色と劣化

太陽光パネルの最も分かりやすい劣化サインは、表面の変化です。経年劣化したパネルでは、以下のような視覚的変化が現れます。


黄変現象(黄色化):太陽光パネルのEVA(エチレン酢酸ビニル)という封止材が紫外線により徐々に黄色く変色します。この黄変は光の透過率を低下させ、発電効率の低下につながります。特に10年以上経過したパネルで顕著に見られる現象です。黄変の程度によっては、5〜15%の出力低下を招くことがあります。


白濁現象(スネイルトレイル):パネル表面にカタツムリの這った跡のような白い筋が見られる現象です。セル内の微細なクラック(亀裂)から水分が侵入し、銀電極と反応することで生じます。このパターンが見られるパネルは、出力が著しく低下している可能性が高く、早急な対応が必要です。


デラミネーション(層間剥離):パネルを構成する層が剥がれる現象です。パネル表面にバブル(気泡)や波打ったような不規則な模様が見られます。デラミネーションが発生すると、水分の侵入経路となり、内部腐食や絶縁不良につながる危険性があります。



フレームとバックシートの劣化

パネルの周辺部分も重要な確認ポイントです。


フレームの腐食・変形:アルミフレームの腐食や変形は、パネルの機械的強度を低下させるだけでなく、雨水の侵入経路になる恐れがあります。特に海岸近くの塩害地域では腐食が加速するため、定期的な確認が重要です。フレームとガラスの接合部のシーリング材の劣化にも注意が必要です。


バックシートのクラック:パネル裏面のバックシートにひび割れや亀裂が発生すると、内部への水分侵入を招き、絶縁不良や火災リスクが高まります。バックシートの劣化は特に高温多湿の環境で加速します。最近では厳しい環境下でも20年以上の耐久性を持つ高性能バックシートも登場していますが、既存のシステムでは定期的な点検が欠かせません。



ホットスポットの発生

ホットスポットとは、パネルの一部分だけが異常に高温になる現象です。熱画像カメラ(サーモグラフィー)で撮影すると赤く浮かび上がって見えます。以下の原因で発生します。


  • セルの一部が影になることによる逆電流

  • セルの亀裂やマイクロクラック

  • 内部接続の不良

  • バイパスダイオードの故障


ホットスポットが発生すると、局所的な高温により封止材やバックシートの劣化が加速し、最悪の場合は火災リスクも生じます。温度が85℃を超えるホットスポットが検出された場合は、早急な対応が必要です。


発電量からの劣化診断


発電データの経年比較

発電量の低下は劣化の最も明確な指標です。以下の方法で発電データを分析することで、劣化の進行度を定量的に評価できます。


年間発電量の比較:同じ月や季節の発電量を前年と比較します。一般的な結晶シリコン太陽電池の年間劣化率は0.5〜1.0%程度とされていますが、これを大きく上回る低下がある場合は、何らかの異常が発生している可能性があります。

ただし、単純比較では日射量の年変動も影響するため、次の方法でより正確に評価します。


PR値(Performance Ratio:性能比)の算出:PR値は日射量の変動を加味した発電性能の指標です。

PR =実際の出力(kW)÷(パネル容量(kW)×日射量(kW/㎡))

PR値が年々低下する傾向が見られれば、システムの劣化が進行していると判断できます。初期のPR値が0.8前後であることが多いため、0.7を下回るようであれば詳細な点検を検討すべきです。


ストリング別・モジュール別の比較

発電システムは複数のパネルをストリング(直列接続)として構成しています。ストリング単位での発電量比較は劣化箇所の特定に有効です。


ストリング間の発電量格差:同じ方位・角度に設置されたストリング間で発電量に5%以上の差がある場合は、特定のストリングに問題があると考えられます。


I-V特性曲線の変化:I-V曲線測定器を使用すると、電流-電圧特性からパネルの状態を詳細に診断できます。正常なパネルの曲線と比較して、以下の変化がある場合は劣化が疑われます。


  • 短絡電流(Isc)の低下:透過率低下やセル劣化を示唆

  • 開放電圧(Voc)の低下:セルの接合部劣化を示唆

  • フィルファクター(FF)の低下:直列抵抗の増加を示唆



専門機器による診断技術


サーモグラフィー検査

熱画像カメラを使用した検査は、目視では確認できない異常を発見するのに非常に効果的です。


検査のタイミング:サーモグラフィー検査は、パネルに十分な日射がある状態(800W/m²以上が理想)で行うのが効果的です。朝や夕方の斜光では温度差が出にくいため、できるだけ太陽高度の高い時間帯に実施します。


温度異常のパターン解析

  • 単一セルの高温化:そのセルの欠陥や亀裂を示唆

  • ストリング全体の温度上昇:接続不良や回路問題を示唆

  • バイパスダイオード周辺の高温:ダイオードの故障を示唆


5℃以上の温度差が見られる場合は要注意です。10℃以上の温度差があれば、早急な対応が必要です。



EL検査(エレクトロルミネッセンス)


EL検査は、パネルに電流を流して発光させ、特殊なカメラで撮影する方法です。肉眼では見えないマイクロクラック(微細な亀裂)や不活性領域を視覚化できます。


検出できる異常

  • マイクロクラック:セルの亀裂(発光しない線として現れる)

  • 不活性領域:発電に寄与していない部分(暗く表示される)

  • 断線:セル内部や配線の断線(完全に発光しない領域として現れる)

  • PID現象:パネル端部から進行する電位誘起劣化(周辺部が暗く表示される)


EL検査は夜間や暗所で行う必要があり、専門的な装置と知識が必要ですが、最も詳細なパネル状態診断が可能です。特に落雷や台風後の緊急点検に有効です。



ドローン点検技術

近年、ドローンを活用した太陽光パネルの点検が普及しています。


高解像度カメラによる外観検査:地上からは確認しづらい高所設置パネルの外観を詳細に撮影できます。4K以上のカメラを搭載したドローンでは、微細なクラックや汚れも検出可能です。


ドローン搭載型サーモグラフィー:熱画像カメラを搭載したドローンにより、広大なメガソーラーでも効率的にホットスポット検査が可能になりました。自動航行プログラムを使えば、定期的に同じルートで点検し、経時変化を記録することもできます。


データ解析の自動化:AI技術の進歩により、ドローンで撮影した大量の画像から異常箇所を自動検出するシステムも実用化されています。これにより、数万枚におよぶパネル画像の中から劣化・異常のあるパネルを効率的に特定できます。



劣化診断の正確性を高めるポイント


複合的アプローチの重要性

太陽光パネルの劣化は単一の方法だけでは正確に診断できません。以下の複合的アプローチが効果的です。


目視点検+データ分析:視覚的な劣化サインと発電データの両方を確認することで、劣化の進行度をより正確に評価できます。


定点観測の実施:同じアングルで定期的に写真撮影を行い、微細な変化を記録します。特に気になる箇所はクローズアップ写真を残しておくと、経時変化の確認に役立ちます。


季節変動の考慮:発電量は季節によって大きく変動するため、単純な月次比較ではなく、前年同月との比較や、気象データを加味した分析が重要です。


専門家への依頼タイミング

どのような場合に専門家による診断を依頼すべきでしょうか。


定期点検:少なくとも年1回は専門業者による総合点検を受けることをお勧めします。特に設置後5年以上経過したシステムでは重要です。


急激な発電量低下時:季節変動や天候を考慮しても説明できない発電量低下(10%以上)が見られる場合は、専門的な診断が必要です。


自然災害後:台風、雷、大雪、雹などの自然災害後は、目に見える被害がなくても内部に影響が生じている可能性があります。



まとめ

太陽光パネルの経年劣化は避けられないものですが、早期発見と適切な対応によって、その進行を遅らせ、システムの寿命を延ばすことができます。目視による外観確認、発電データの定期的な分析、そして必要に応じた専門機器による診断を組み合わせることで、劣化の進行を正確に把握し、最適なタイミングでのメンテナンスや部品交換を計画できます。

特に設置後10年以上経過したシステムでは、劣化の進行が加速する傾向があります。「まだ問題ない」と思っていても、専門的な点検で予想外の劣化が見つかることも少なくありません。発電効率の維持と安全性確保のためにも、定期的な劣化診断を習慣化しましょう。

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