PCSが止まる原因はこれだ!太陽光発電における過電圧異常の原因と対策【直流・交流・整定値まで解説】
- 優 中野
- 5月8日
- 読了時間: 4分
はじめに
太陽光発電所でよく発生するPCS(パワーコンディショナ)の「過電圧異常」。PCSが停止すると、当然ながら売電はできなくなり、大きな損失につながります。
この過電圧異常には、「直流側(DC)」と「交流側(AC)」の2つの原因があります。また、PCSにはあらかじめ過電圧を検出するための整定値が設定されており、これを超えると自動的に停止する仕組みになっています。
この記事では、過電圧異常が発生する具体的な原因と、それを防ぐための実務的な対策を、解説します。
1. PCS(パワーコンディショナ)の基本
PCSは、太陽光パネルが発電した直流の電気を交流に変換して、電力会社の系統に送る装置です。PCSは以下のような保護機能も持ちます。
過電圧保護(DC/AC両方)
過電流保護
絶縁監視(漏れ電流監視)
連系リレーによる系統保護
このうち「過電圧保護」が働くと、PCSは安全のため自動停止します。
2. 直流側(DC)の過電圧異常と原因
2-1. 開放電圧(Voc)の上昇
太陽光パネルは温度が低くなるほど、開放電圧(Voc)が上昇します。特に冬の朝、発電が始まる前の冷え切った状態では、Vocが設計値を大きく上回ることがあります。
例:
パネルのVoc:40V(25℃)
-10℃時:1パネルあたり約44V(温度係数考慮)
直列14枚 → 44V × 14 = 616V
パワコンの最大定格入力電圧:600V→ この場合、PCSは起動時に「過電圧異常」で停止する可能性が高い
対策:
ストリング構成の見直し(直列枚数を減らす)
最低気温を想定した設計(温度補正後のVoc計算が必須)
2-2. MPPT制御の誤作動
PCSのMPPT(最大電力点追従)機能が異常動作を起こすと、電圧をうまく制御できず過電圧になることがあります。
対策:
PCSファームウェアの更新
メーカー推奨の設定値の再確認
ログ確認で挙動分析
2-3. ストリング断線・不均等な接続
一部ストリングで断線や接触不良があると、他のストリングに負荷が集中して電圧が上がることがあります。
対策:
IVカーブ測定で不均一なストリングを検出
メガー試験で絶縁抵抗確認
ケーブル端子の増し締め、端子台点検
3. 交流側(AC)の過電圧異常と原因
3-1. 系統電圧が高い
電力会社の系統(電柱側)の電圧が高いと、PCS出力側の電圧もそれに引っ張られます。特に日中、地域の負荷が少ないときに発生しやすいです。
対策:
電力会社と連携し、トランスのタップ調整を依頼
PCSで交流電圧ログを取得して証明
3-2. ケーブルのインピーダンスが高い
長距離配線や細いケーブルによって、インピーダンス(抵抗)が高くなると、出力電圧が逆に上昇する現象(昇圧現象)が起こることがあります。
対策:
配線の断面積を大きくする(太いケーブルに交換)
配線経路の見直し(中間盤の追加など)
3-3. 逆潮流による局所的な電圧上昇
発電量が消費を上回ると、電気が系統側に逆流(逆潮流)します。このとき、近隣の系統電圧が局所的に上昇し、PCSが停止することがあります。
対策:
出力制御機能付きPCSを使用
発電量の抑制設定(メーカー別に機能あり)
蓄電池や負荷の導入も選択肢
4. PCSの整定値(設定値)と確認方法
PCSには、過電圧を検出するための**整定値(過電圧リミット値)**が事前に設定されています。これを超えると、PCSは自動的に停止または出力制限を行います。
4-1. 直流側の整定値例
項目 | 例(機種により異なる) |
DC最大入力電圧 | 600V |
MPPT運転電圧範囲 | 250V〜550V |
DC過電圧停止点 | 610V(誤差含む) |
※Vocがこれを超えると、PCSは起動時に停止
4-2. 交流側の整定値例
項目 | 一般的な整定値 |
AC過電圧1(OVR1) | 107V(単相)または222V(三相)で10秒超過 |
AC過電圧2(OVR2) | 110Vまたは231Vで0.1秒以内停止 |
AC最大出力電圧 | 242V(三相)を超えると停止機能 |
※整定値はPCS側でも設定可能。誤設定で過剰反応することもある。
対策:
現場の電圧とPCS整定値を突き合わせて確認
整定値の再設定(管理者用ツールやパスワードが必要な場合あり)
メーカーサポートへ相談するのも一つの手
5. まとめ
区分 | 主な原因 | 対策 |
直流側 | Vocの設計ミス、断線、MPPT異常 | ストリング見直し、点検、ファーム更新 |
交流側 | 系統電圧高、配線ミス、逆潮流 | 電力会社と協議、配線変更、出力制御 |
整定値 | 初期設定ミス、過剰な保護設定 | 整定値の確認・調整、ログ取得 |
おわりに
PCSの「過電圧異常」は、単にエラーコードだけでは原因を特定できない複雑な現象です。直流側・交流側のどこで異常が起きているのかを冷静に切り分け、設計・設備・設定値の3方向から確認することが大切です。